はじめに|AIは、誰のものか?
2025年3月末、Stratecheryポッドキャストに登場したOpenAI CEO サム・アルトマンは、AI業界の根幹にある問いに真っ向から向き合った。
語られたのは、技術の進化そのものではない。
投資と独占、オープンソースと囲い込み、そして他社との“戦略的な距離感”――。
それはまるで、「AIという存在を、いかに人類の手の届く場所に保つか」という問いに対する、ひとつの思想のようでもあった。
ポッドキャストの中で繰り返されたのは、“構造”というキーワードだ。
アルトマンの視線の先には、AI技術のスペック競争ではなく、それを生み出す社会・経済の仕組みが見据えられている。
資本主義は、AIをどう変えるのか
アルトマンはこのように述べている。
「いまの大規模AIモデルの構築には、数十億ドル規模の資本が不可欠になった。もはや“小さな実験”の延長ではない」
かつて非営利で始まったOpenAIが、現在では“キャップ付き営利モデル(capped-profit)”を採用している理由も、そこにある。
Microsoftとの戦略的パートナーシップを通じて莫大な計算資源を得ながらも、アルトマンは「意思決定の独立性を守る」と繰り返す。
「Microsoftとは非常に良い関係だが、OpenAIがどのようにモデルを開発し、どこに使うかは、われわれ自身の判断に基づいている」と強調した。
この姿勢には、AIという“インフラ的存在”に対して、企業主導ではなく「共通財としての意識」がにじむ。
オープンソースか、クローズドか
番組では、オープンソースに対するスタンスにも話が及んだ。
アルトマンは、「最先端モデルのすべてを公開することは、もはや現実的でない」と断言する。
「最新の大規模モデルをフルオープンにすることは、悪用リスクとイノベーションスピードの両面でトレードオフが大きすぎる。適切なガバナンスの上に成り立たない限り、オープンソースは万能ではない」
この発言は、MetaがLlamaシリーズを公開していることや、Mistralなどの登場を背景にした文脈とも重なる。
一方で、「研究や教育においてオープン性は不可欠」という立場も明示しており、完全な囲い込みを目指しているわけではない。
AI開発のオープン・クローズ論は、いまや単純な善悪の問題ではない。
「信頼性」「速度」「規模」「倫理」という複数の軸をどう設計するかの“構造論”へと変容している。
AnthropicとxAI、それぞれとの“距離”
ポッドキャストでは、ライバル企業との関係性にも踏み込んだ。
Anthropicについては、「彼らの安全性へのこだわりは心から尊敬している」と語りつつ、「我々とは技術戦略も組織の哲学も異なる」と距離感を示した。
xAIについてはよりドライだ。
「イーロンとは話していない。訴訟の件についても、あまりエネルギーを割くつもりはない」
ここでの言及は少なかったが、むしろそれがOpenAIのスタンスを端的に示している。
競争を過度に煽るのではなく、各陣営が異なる価値観で共存する“分散的な構造”こそが、AI社会の健全性につながるという信念が垣間見える。
要点整理
- 大規模AI開発は「資本」と「公共性」の両立という新たな挑戦フェーズに突入している
- オープンソースは善でも悪でもない。リスクと目的に応じた設計が重要
- Anthropic、xAIとの“距離感”に、アルトマンの戦略的中立性が見て取れる
考察と展望|誰が“AIの所有者”になるのか?
アルトマンの発言を貫いているのは、「技術の独占を防ぐ構造を、先に設計しておくべきだ」という明確な意思だ。
この視点は、技術開発そのものよりもはるかにラディカルである。
彼が見ているのは、AIを制する者ではなく、AIの“構造”を設計する者が社会に対して持つ影響力の大きさだ。
それはもはや技術者や経営者だけの問題ではない。
AIを使う「私たち」のリテラシーと意思もまた、その構造の一部として問われている。
未来は、単に技術の進化でやってくるのではない。
どう設計するか。誰が関わるか。どこまで共有するか。
その選択の積み重ねこそが、次の社会基盤をつくっていく。
参考・出典(リンク確認済)
- Stratechery Podcast with Sam Altman(2025年3月25日) https://stratechery.com/2025/openai-and-the-ai-platform-shift-with-sam-altman/
- Microsoft and OpenAI: Partnership Announcement(公式発表) https://blogs.microsoft.com/blog/2023/01/23/microsoft-and-openai-extend-partnership/
- Meta Llama 2 Model Release https://ai.meta.com/llama/
- Anthropic Official Blog https://www.anthropic.com/index/core-views
- xAI Official Website https://x.ai/