はじめに|契約業務の“壁”に風穴を開けるAI
契約は、ビジネスの意思決定を支える最も基本的なインフラのひとつです。にもかかわらず、多くの企業にとって「契約業務」は、煩雑で属人的で、ミスや遅延が許されないプレッシャーの高い業務でもあります。
法務部門の人手不足、経営判断とのタイムラグ、そして現場からの問い合わせ対応……。この“見えにくい非効率”の積み重ねが、企業全体の意思決定スピードを鈍化させていることも少なくありません。
そうした現実の中で、今AIは「契約」という領域にも本格的に入り込みつつあります。
本稿では、契約書レビュー支援から業務フローの再構築、意思決定支援にまで広がるAIの役割を、最新のツール実例をもとに読み解いていきます。
契約実務に広がるAIの用途
AIの導入が進んでいるのは、契約にまつわる定型業務や意思決定補助の場面です。以下は、すでに日本企業でも導入が広がっている代表的な4つの活用領域です。
1|契約書レビュー・リスク検知
NINJA SIGN、LegalForce、GVA assist などが提供するAI契約書レビューツールでは、文面の不備やリスク要素を検出し、契約文書の修正提案を自動で行います。
- 契約書1通あたりのレビュー時間を60%以上短縮(LegalForce社 公表データ)
- 対応可能な契約類型は、秘密保持契約(NDA)・業務委託契約・売買契約など多岐にわたる
2|条文検索・判例ナレッジ連携
GVA TECHが展開する「GVA assist」では、契約書の条文に応じた参考条文や判例、社内ナレッジをAIが提示。社内に蓄積された知見を迅速に活かすことで、業務の属人化を防ぎつつ、判断の質を維持します。
3|AIによる契約内容の要約・説明
契約の複雑な条文構造を、AIがビジネス側にわかりやすく「翻訳」する機能も登場しています。
- 要点整理やQ&A形式でのアウトプットにより、現場担当者が条文の意味を理解しやすく
- マイクロソフトのCopilotやGPT-4 TurboのAPIを活用した企業独自のインターフェースも拡大中
4|意思決定支援・契約データの構造化
RAG(Retrieval-Augmented Generation)技術を用いて、過去の契約書群をAIに取り込むことで、経営層や法務責任者が「同様のケースで過去にどう対応したか」を検索・比較できる環境も整いつつあります。
- コンプライアンス遵守の強化
- 経営判断との整合性確認が容易に
企業に求められる「契約×AI」導入戦略
ツール導入だけで成果が出るわけではありません。以下のような戦略的な設計が、導入効果を最大化する鍵となります。
● 現場ニーズの可視化から始める
営業部門、経理、人事、購買など、契約に関わる部署ごとに「どこで滞っているか」を把握することが重要。現場の声を丁寧に拾い、AIが介在する余地のある業務ポイントを明確にします。
● 法務部主導で“共通ルール”を策定
ツールが複数部門で使われる場合、チェック項目の統一やレビュー基準の明文化が必要です。特にRAG系のAIは「正しい情報源の設計」が精度を左右します。
● “法律文書を扱う”という前提への教育
AIが示す内容は参考であり、最終的な判断は人間が行う──。その前提を共有する社内教育も不可欠です。
注目のAI契約支援ツール3選(2025年4月時点)
1. LegalForce(リガルフォース)
- 契約書レビューの定番。レビュー済み文書との比較機能、条文単位の修正提案に強み。
- 2025年4月時点で、導入社数3,000社以上。
- URL:https://www.legalforce-cloud.com/
2. GVA assist
- 契約書作成・レビュー補助に加え、社内ナレッジとの連携が可能。
- 2025年現在、企業規模を問わず法務業務のデジタル化を支援中。
- URL:https://www.gvatech.co.jp/
3. MNTSQ(モンテスキュー)
- 契約データベース構築、契約書検索、分析に強み。
- 条文単位の比較に加え、企業横断でのベストプラクティス分析も視野に入れた設計。
- URL:https://mntsq.com/
要点整理
- 契約業務にAIを導入する動きは、もはや「実験」ではなく「実装」段階に
- 法務・経営・現場の接点をAIでつなぐことが、全社の意思決定速度を高める鍵
- 導入には、ナレッジ設計・ルール整備・教育設計の3点が不可欠
- 現場の業務を変え、経営判断を支える “新たな契約のインフラ”として期待されている
考察と展望|契約は“書類”から“経営資源”へ
契約という行為は、単なる文書のやり取りではありません。それは、企業が責任をもって行動するという「約束」であり、「戦略の起点」です。
AIが契約実務に入ることで、企業は初めて「契約」という営みを経営の中心に位置づけられるようになる──。そうした可能性が、いま現実のものとなり始めています。
AI Slashは、法務と現場、経営をつなぐ新しい契約のあり方を、これからも追いかけていきます。
参考・出典
・LegalForce 導入企業一覧
https://www.legalforce-cloud.com/customers
・GVA assist 製品ページ
https://www.gvatech.co.jp/assist
・MNTSQ 製品情報
https://mntsq.com/product
・経済産業省「AI戦略2025」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/ai_strategy.html
・日経クロステック「契約実務にAIが与えるインパクト」
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02061/041000001